なぜ催眠は不思議に見えるのか その2

 …このページの内容は電子本『催眠の本質と新しい催眠療法』の「第一章 催眠について」の一部をそのまま抜粋したものです…

 催眠状態(トランス状態)にある人の反応を見ると、普通でない不思議な印象が残る。けれども実は催眠トランス状態における不思議に見える様々な現象は何も特別なものではない。それらは私たちの心身のメカニズムが持っている通常の動きにすぎないものであって、日常で起こる様々な心身の現象を一歩も越えてはいない。ではなぜ魔法にでもかかっているかのような感じがするのか。主に三つの観点から解明していってみよう。

思いこみ

 実は私たちは自分自身の心と体と、その現象の事を本当はよく知らなくて気づいていない事が多い。けれども意識的にはまるで良く分かっているというようなつもりでいる。

 例えば初めて録音した自分の声をテープレコーダーから聞いたときに、ほとんどの人が「なんだか自分の声とかなり違う」と感じる。一緒に聞いている人に確認してみると君の声そのものだと言われる。でもなかなか直ぐには納得しがたい。ここで私が指摘したいのはなぜ声が違って聞こえるかということではない。それまで「他人には、自分が思っている自分の声の感じとは違う感じに聞こえている」とつゆにも思わないでいたことである。自分に聞こえるように他の人にも聞こえていると思いこんでしまっていたのである。

 このような「自分がそうだから他人もそうだろう」との思いこみが多々あるのが私たちの通常意識なのである。ものごと全て「見れども見えず聞けども聞こえず」といった有様なのかもしれないのだ。

 通常私たちは行動する(身体を動かす)とき、本当は習慣化されたものや無意識的なところからが多い。それなのに大概のことを自分の意志力によって直接コントロールし、行動しているような気でいる。自己統制感のようなものがある。でもこれは実は意識がそう勝手に思いこんでいるだけのことである。

 催眠誘導はこの自我意識の思いこみの心理を逆利用して成り立つ。催眠誘導をする際に催眠誘導者は巧みに、意識的な努力と別にイメージ活動がかってに活発化し、それに釣られて身体活動も活発化してくる点を強調して際だたせる。本当はそのような動きは心身全体からすると、とても自然なものである。でも自分自身を常に統制していると思いこんでいる自我意識の側にとってみるとそれは、それらが、まるで自分の意志とは関係ないところでそうなっているかのように感じる。自分がやっている感じがしなくて勝手に動かされているような他動感となる。

 これは内的イメージ活動の最たるものである睡眠中に見る「夢」に対して不思議に思うのとほとんど同様の感覚である。

 ところで催眠トランス状態にある人が、通常の意識状態と違った状態にあることを証明するための催眠実験的な幾つかの誘導パターンがある。その中でも特に驚かされるのは、か弱そうな女性が驚くような力を発揮したりする「火事場の馬鹿力実験」である。「ヒューマンブリッジ」といって身体を硬直させた上にかなりの体重の人が乗っても本人は平気であったり、時には男性と腕相撲をして勝ってしまうこともある。火事場の馬鹿力的なことが催眠誘導によって出来てしまうのだ。

 実はこれはその本人の肉体の限界以上に力を発揮できているわけではない。その証拠にスポーツ選手など元々肉体を鍛えている人にヒューマンブリッジの誘導をしてみると、覚醒時と催眠時とにそれほどの差異は見られないのである。スポーツ選手などは元々肉体を鍛錬しているせいで、催眠下でも覚醒時でも関係なくその当人の持っている限界近くまで筋力を働かせることができる。けれどもそうでない一般的な女性だと「女性は力が弱い」というその思いこみによっての限界の枠と、本来持っている肉体の実際の限界とのズレが大きくなるのである。

 よく催眠で潜在意識に働きかければ眠っていた能力が発揮できるようになると言う。けれどもこれは見方を変えれば自我意識の思いこみの枠が取れたので本来の力が発揮できるようになったということなのである。

 ……人は事実に即して無意識的に反応する以外は、頭で思いイメージするところから行動が生まれる。その中で特に強力なのは自分と一体化した「思い込み」のパワーである。これらは全て意志の力より強力である。プラス思考や引き寄せなどはこれをうまく利用しようとするのである。この思い込みには大小から強弱までいろいろある。例えば単なる「思い込み」や「固定観念」など。また子供の頃から「~を信条としてきた」など使うように「信条」は人の人生を左右する大きな思い込みといえる……

 ……日本のバブル崩壊時代によく「土地神話が崩壊した」といわれたりしたが、そこで例えに使われた「神話」などは国家レベルの思い込みである。心理面接の中では定番のように、子供の頃に親などの大人から言われた言葉が強い思い込みや信条となってその人の人生を大きく支配していることが見えてくるのである……

催眠状態にある人を見たときの不思議さ

 例えば電車内で、漫画や小説を読んで笑っている人は「変な人」と思われるかもしれないが、魔法にかかっている人とは思わない。第三者にも見える漫画という表現、刺激となるものがちゃんとある為に「ああ、面白いもの読んでいるんだな」と了解できるからである。ところが電車内で一人でポツンと座っている人が、ただニヤニヤして笑っていたら、それを見た人は「どうしたんだろう」と何に対しての反応なのか分からないので不思議に思うし気味悪くもなる。

 これと同じに、深い催眠状態にある人も催眠誘導者の暗示言葉以外は、刺激となるものが見えない。外界と全く無関係になって暗示言葉だけに反応し行動している。そこでそれを見ている人は催眠下での行動がどうしても理解しがたくて、不思議に感じるのである。

 けれども電車の中でニヤついていた人が実は思い出し笑いで笑っていたことが分かると「何だ、そうだったの」と了解がつく。催眠下における反応や行動も全く同じである。両者ともに内的なメージ活動からの行動である。催眠暗示の刺激言葉から被験者の心の中のイメージ活動が活発になり、それによっての反応や行動となっているのである。

★参考ページ:『なぜ催眠は不思議に見えるのか その1』『なぜ催眠は不思議に見えるのか その3』『心と身体と催眠(意識の勘違い)』『催眠の正しい理論


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