なぜ催眠は不思議に見えるのか その3

 …このページの内容は電子本『催眠の本質と新しい催眠療法』の「第一章 催眠について」の一部をそのまま抜粋したものです…

暗示の不思議

 よく催眠に「かける、かけられる」と言ったりするように、催眠誘導者と被催眠者の関係は非常に特殊な二者関係となる。そこで第三者に見聞きできるものは、始めから終わりまで「暗示」といわれる誘導者の主に言葉によるリードとそれに対する反応である。催眠誘導者の用いるその暗示言葉は通常の言葉遣いとかなり違っている。この点からも催眠は何か特殊な了解しがたいような不思議なものに見えてくるのである。

 通常の関係では何事にもいえることだが、こちら側につき合ってもらうには依頼や命令だけでなく、何に付き合ってもらうかを表現し説明(刺激)して相手の興味を引き、理解してもらったり納得してもらうことが必要となる。そこでは言葉で表現されたものにせよ音楽にせよ出来事にせよ、常に相手を刺激する表現されたものが必要となる。それに対して催眠の場合は、催眠誘導者のリードによって被催眠者は次第に集中を深めていく。そのさいに、催眠誘導者は意識的に暗示という特殊な言葉づかいを用いたりしながら被催眠者に我を忘れてもらうように導くのである。

 日常で何かに夢中になっている状態(感情移入状態)であれば、それらの多くが催眠トランス状態と同一の心理状態である。そんな中で「大好きなミュージシャンのコンサート」を例にとって催眠と比較してみよう。コンサートなどにおける盛り上がりと催眠状態との違いは、コンサートの場合は「演奏された音楽や歌」などによってその気になるが、催眠の方は催眠誘導者の主に「暗示言葉」による働きかけでその気になるのである。

 コンサートの場合は演奏される音楽がはっきりとした形としてあって聴衆はそれに聞き惚れ感動することから感情が盛り上がる。もちろんライティングなどの舞台装置による雰囲気作りなどもそれを後押しする。それらによって観客は次第に我を忘れていく。そして夢中になればなるほどあっという間に楽しく時がすぎるのである。催眠誘導における暗示言葉はコンサートでのメインである音楽や歌と同等である。それによって被催眠者はコンサートにおける観客と同様に忘我状態に入っていく。もちろん催眠誘導の場合も暗示言葉に加えて、催眠誘導者自身の雰囲気やその場の雰囲気も催眠誘導における成否にかなり影響する。

 催眠の場合は、誘導者が暗示の言葉をかけると被催眠者はそれに反応して様々な反応や行動をする。でもその時の誘導者の発する暗示言葉は第三者にもわかるような表だって何かを表現するようなたぐいのものではない。言葉を使って何かを表現する通常の使い方とは非常に違っている。それは、何かをより良く表現しようとする言葉の遣い方でなくて直接的に、被催眠者の内界のイメージ活動が活発化することだけを狙って(暗示)言葉を発しているのである。

 催眠におけるその二者関係は命令する者とされる者の関係に非常に似ていて、それが誤解を生んで催眠を拒否、否定する人も多い。でも本来の催眠暗示自体には押しつけはない。暗示とは「思い込み」を作って「その気にさせる」ための表現や言葉遣いを凝縮したものなのである。通常他者に働きかけるときは「動かして下さい」とか「動きましょう」「動かしなさい」などの言葉づかいをする。ところが催眠誘導では「動く動く」とか「動いてくる動いてくる」などと言う。

 暗示言葉では当人の意識的努力で動かすような言葉遣いを排して、あたかも自動的に動き出すような言葉づかいで働きかけるのである。日常において、人をその気にさせるような言葉遣いやその他の働きかけのテクニックはたくさんある。けれども、日常の場で催眠における暗示言葉の用い方と同じものは少ない。母親が小さい子供におしっこをさせるときに「シーッ、トントントン」等と言っているのはそれである。他にはスポーツコーチが選手を励ますさいに暗示言葉的な話しかけをよく用いている。

 催眠誘導者の側からいうと、暗示という特殊な表現(言葉使いなど)を用いて被催眠者に新しい思い込みを作っていくのが催眠である。煎じ詰めれば催眠の中で純粋に催眠固有のものはこの暗示による働きかけの部分のみである。その他の催眠トランス状態における一見不思議に見える現象は、元々人間が持っている「イメージ活動」が身体の動きとなったものである。それらは日常で常日頃生起している心身の現象と全く同一なのである。

 ではなぜ催眠にかかった人の行動が不思議に見えるのか。それは催眠の中では心身の現象が凝縮されて現れ見える点と、もうひとつ、私たちが日常での心身現象を大きく勘違いしているためにそう感じてしまうのである。この私たち自我意識の勘違いについては後に詳しく解明していく。「催眠て不思議?」と言うより「人の心って不思議!」というのが本当なのである。

★参考ページ:『なぜ催眠は不思議に見えるのか その1』『なぜ催眠は不思議に見えるのか その2』『心と身体と催眠(意識の勘違い)』『催眠の正しい理論


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